孤独のグルメSS 「滝山より愛をこめて」

既に深夜となった夜の街。
場末の寂れた高レートの雀荘で、一卓が勝負を終えようとしていた。

滝山「そいつぁ通らねえよ。ロンだ」
対面の中年の捨てた北に、滝山の四暗刻単騎が突き刺さった。
滝山「スッタンだが、32000点で勘弁してやるよ。まだ死にたくねえだろ」
中年の顔が青くなる。すでに持ってきた3000万円の軍資金はそのほとんどが尽きた。
明日までにこの3000万円を倍にしなければいけなかったのに、すでに残りは数十万円を残すばかり。
都度清算の店だ。次、アガれなければそこで軍資金は尽きる…いや、マイナスだ。払える当てもない。
引き下がるか、という考えが一瞬頭をよぎるが、中年はその考えをすぐに振り切った。
…続けるしかない。
…続けなければいけない。
ここで退いてもどのみち死ぬ。せめて前に進み、光に賭けるしかないのだ。中年はそう決意した。

五郎「ダブロン、ありだったよね?はい、国士。俺も32000」
しかし、中年が求めたその光は、上家の五郎のその言葉によってあっさりと潰えた。
滝山「なんでえ、どっちみち終わりじゃねえか」
ガハハハと滝山が笑う。その見事な対比のように、中年の顔は絶望に染まった。

中年は五郎と滝山に土下座する。なんとか見逃してくれないか、と。
表情を変えない五郎の横で、その横で滝山がにやりと笑う。
滝山「おもしれえ。なんでもするってんなら、俺が一億程度立て替えてやってもいいぜ」
何かを企んだのか、滝山は中年にある提案をした…。

五郎「やれやれ、何考えてるんだか…」
次の日の新聞を見て、五郎が苦笑する。
新聞の片隅には、全裸の中年がプロレスラーのマスクをつけ、小雪の新作映画を宣伝しながら
警察官にフライングクロスチョップをかましたという珍記事が小さく載せられていた。
五郎「ま、どーでもいいかァ。それより今日はカレーでも食おうかな」