群馬県桐生市が生活保護費の支給で不適切な対応をしていた問題で、警察OBを生活保護の相談員として採用するため、市が「刑事課などで暴力団対応経験者を希望」とのただし書きをつけて、県警に紹介を依頼した文書を桐生市生活保護違法事件全国調査団(団長・井上英夫金沢大学名誉教授)が入手した。調査団は「生活保護申請者を萎縮させる『水際作戦』が疑われる」と指摘している。
市福祉課によると、警察OBは年度ごとの任用職員として採用しており、生活保護の相談員を務める。窓口に暴力団関係者や不当要求者が訪れることに備え、2012年7月に福祉課での採用を始め、現在は3人を配置している。この中には警察の刑事課の経験者が含まれ、生活安全課の経験者もいるという。
調査団によると、桐生市が20年11月、荒木恵司市長名で、県警本部警務部管理官にあてた文書を入手。「退職警察官の紹介依頼について」と題され、「生活保護・就労支援相談員」として「刑事課などで暴力団対応経験者を希望」すると記されていた。
調査団の調査では、警察OBの窓口対応は暴力団関係者や不当要求者にとどまらず、生活保護の新規相談や面接にもあたっていたと判明。業務目的や業務の範囲などを規定する実施要領(マニュアル)もなかったという。調査団が実施要領の作成の有無を尋ねると、市は「事務処理上、特段必要としなかった」などとして、存在しないと回答。調査団は「警察OBの相談員に無限定に業務を丸投げしている」と批判する。
厚生労働省は15年3月、生活保護を受けている人の就労支援相談員について「キャリアコンサルタントなどの資格を有する者やハローワークOBなどの就労支援業務に従事した経験がある者などが望ましい」とする通知を発出。調査団は「警察OBの専門性は犯罪捜査にある。困窮者に対する就労支援の専門性として、警察OBの専門性を持ち出すのは明らかに不合理」と批判している。
今回の調査を踏まえ、調査団は「警察OBの面接は生活保護申請者を萎縮させる『水際作戦』が疑われる」と指摘。19日、桐生市と同市の生活保護問題を検証する第三者委員会に対し、警察OBによる窓口対応の実態調査などを申し入れる。【