
両親共にスタンフォードの人気者だった
バンクマンとフリードは、息子が巨額の資産を手にして有名になるずっと前の1980年代からスタンフォード大学の教壇に立ち、学内ではとても人気のある夫妻だった。キャンパス内にある自宅に住み、日曜の夜には友人や同僚を頻繁に夕食に招き、現代のサロンだと例える客も少なくなかった。
バンクマンは税制分野の第一人者で、税申告制度の簡略化を積極的に主張してきた。米連邦議会で税について証言したこともある。臨床心理学の学位も持ち、セラピストでもある。
2022年に退職したフリードは法哲学の専門家で、効果的利他主義を論じた著作もある。効果的利他主義とは、データを活用して寄付の影響を最大化する慈善ムーブメントで、サムも提唱していた。フリードは2018年にマインド・ザ・ギャップの立ち上げに加わり、データ分析を政治資金にも取り入れようとしていたと、同団体でのフリードの役割を知る人物が語っている。
夫妻の人生は、息子がFTXを創業した2019年を機に様変わりした。サムがFTXを評価額320億ドルの事業へと成長させたほか、社会の改善に向けて寝る暇も惜しんで働き、自らの富を効果的利他主義に裏打ちされた大義に注ぎ込もうとする夢想家という評判を手にしたからだ。
夫妻はそんな息子のビジネスをあと押しした。とはいえ、母フリードは息子の暮らしぶりを不安視していた。5月に「ニューヨーク・タイムズ」紙の取材に応じた際にはこう語っている。「睡眠が足りていないのではないかと心配です。多大な犠牲を強いられていないことを願うばかりです」
一家はかねてから、サムが創業したFTXと政治に関心を寄せてきた。サムは大口の政治献金者で、マインド・ザ・ギャップの推奨団体を支援する寄付者一覧にもその名があったと、同団体をよく知る人物は語っている。サムはさらに、弟のガブリエル(27)が運営する非営利団体「ガーディング・アゲインスト・パンデミックス」にも資金を援助していた。
FTXに深くかかわっていたのはバンクマンだ。同社が創業直後に初めて顧問弁護士を採用する際には手を貸し、2022年に連邦議会で開かれた会合にはFTXの従業員として出席。下院金融委員会での証言に向けて準備する息子に助言していたことも、関係者の話から明らかになっている。税について、ほかのFTX従業員の相談に乗ることもあったようだ。
バンクマンは2022年8月に「FTXポッドキャスト」に出演した際、「創業当初から、役に立てることがあればいつでも手を貸していました」と語っている。
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