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ロシアのタス通信は2月15日、南部軍管区の所属部隊がクリミア半島における演習を終了し、カスピ海に面したダゲスタンなどの原隊に帰還したと報じた。またロシア国防省も同日、ベラルーシ国内の西部軍管区所属部隊も予定通りウクライナ国境近くの演習を終えて、撤収中と発表した。
昨年11月以降、米国のメディアが「ロシア軍のウクライナ国境付近の集結」を報じ、ロシア軍がウクライナに侵攻するかのような雰囲気がつくられた。バイデン大統領もこれを追認して「侵攻したら決定的に対応し、ロシアに手厳しいコストを負わせる」(2月12日)といった発言を繰り返した。
「16日侵攻」説飛び交う
特に米国の政治専門インターネットサイトPOLITICOは2月11日、米諜報機関の情報として「2月16日にロシア地上軍の侵攻開始」と伝え、英国の複数の日刊紙も15日に「明日午前1時に侵攻」(『ザ・サン』紙)といった記事を掲載し、緊張が高まった。
15日の「ロシア軍演習終了」はこうした「2月16日」説の怪しさを明らかにしたが、それ以前から「侵攻」に関して「早ければ1月初め」(『ワシントン・ポスト』紙21年12月3日付)といった諸説が飛び交い、すべて外れた。しかもその大半が、800㌔以上あるウクライナのロシア国境線のどこにロシア軍が「集結」しているのか特定すらしていない。
バイデン大統領は15日、「ロシア軍撤収」の情報を「確認していない」としながら、「15万人のロシア軍がウクライナを包囲している」と述べ、情勢が依然緊張していると強調した。だがウクライナは西部で米国主導の北大西洋条約機構(NATO)の加盟国のポーランドやルーマニアなどと接しており、「包囲」など不可能だ。
米国の政権が発する情報の不確実さを象徴しているが、「ロシアの侵攻」自体がそうだ。ジェイク・サリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は2月13日、出演したCNNの番組で「軍事攻撃はすぐにでも始まる」と述べる一方で、「そのうち始まる」と意味が異なる用語を使い分けている。
だが、フランスの大統領府は1月21日、「(ロシアの)攻撃が差し迫っているとは結論付けられない」と声明。ウクライナ国家安全保障・国防会議のオレクスィ・ダニロフ長官も1月23日、英BBCのニュース番組に出演して「(国境付近で)一般に言われているように、ロシア軍が増強などしていない」と断言している。つまり「侵攻説」を主に拡散しているのはバイデン政権と米国主要メディアなのだ。
ロシア政府が何度も「侵攻」を否定しているのに無視されているのみならず、ロシア側が米国に提出している安全保障に関する協定も、「侵攻」や「制裁」という用語が飛び交う中でバイデン政権によって棚上げ状態だ。だがこの協定が米ロ間の交渉で論議されない限り、ウクライナでの軍事的緊張は今後も続く。