
一方、流行の鍋料理はどのように味つけしたらおいしくなるのか、想像しにくい。寄せ鍋なら醤油とみりんを使うのだろう、水炊きならポン酢があればいい、と連想できるが、カレー鍋とトマト鍋は味付けに工夫が必要になりそうだ。そうしたことが、既製品の鍋スープのヒットにつながり、やがて各種の鍋スープが登場する要因になったのではないか。
味つけを変えることで家庭料理にバラエティを持たせる傾向は近年、ますます強くなり、目新しい味つけができる合わせ調味料が人気である。ミックススパイスのシーズニングもここ数年流行中で、ガパオライス、ソムタムなどのタイ料理、チョレギサラダなどの韓国料理、ラタトゥイユなどの洋食、と各国の人気料理に合わせたものがスーパーに並ぶ。
外国料理の合わせ調味料といえば、麻婆豆腐の素が1971年に丸美屋が、1978年に味の素を発売し、すっかり定着している。もっとさかのぼれば、昭和半ばまでに定着したカレールウやカレー粉、トマトケチャップやウスターソースも合わせ調味料の仲間だ。
列挙してみると、いずれも外国料理。なぜならば、使う調味料が想像つきにくく、また買っても使い切るのが難しかったからだろう。謎の味だったからこそ、味つけに悩まなくて済む合わせ調味料が定着したのだ。同様の展開が、鍋スープの定着でもあったと考えられる。
ところで、鍋スープはいつから販売されていたのだろうか。古いものでは、大手の紀文が2003年に「豆乳鍋の素」を発売している。ダイショーはそれより前、1991年にもつ鍋スープを発売しており、「鍋スープのパイオニア」と言われている。もつ鍋は1990年代初め、爆発的なブームになっていた。
鍋スープが人気なのは、流行の味を食べてみたいと思ったとき、気軽に試せるからだろう。なんといっても鍋料理には三つの魅力がある。一つは、素材を切っておくだけと準備が簡単で時短になること。二つ目は野菜をたっぷり摂ることができ、栄養のバランスがよいこと。三つ目は、家族がそろって囲み、わいわいと楽しく食べられること。
しかし最近は、1人鍋用の鍋スープも人気だ。そのパイオニアは味の素で、固形のコンパクトな鍋キューブを2012年に出して大ヒットし、エバラ食品が2013年、ミツカンが2016年に商品化している。外食店でも1人鍋を出す店はあるが、ライフスタイルの多様化に対応し、鍋も必ずしも家族や仲間と囲むとは限らなくなっている。
とはいえ、主流はやはり複数で囲む食べ方だ。コロナ禍で、手軽に作れて家族で囲めるホットプレート料理も大流行したが、それより前から定着していた鍋が見直されるのも必然と言える。しかも、鍋スープさえ買えば何種類も試せるのだから、毎日のように鍋料理にしても飽きにくい。そのためにも、目新しい鍋料理が次々と流行が生まれる必要がある時代になったと言えるかもしれない。
市販の「鍋スープの素」が、ここまで人気になった「納得の理由」(現代ビジネス)
https://news.yahoo.co.jp/articles/600c20d1c9326d861e167dcb747d2982750b1d39