
2年前にフェイクニュースを作り始めた2人組に出会った。金色のピアスが耳に光る、イマドキで端正な顔立ちの男子大学生だった。
取材場所に指定されたのは、5つ星ホテルの一室。大学で経営学を学ぶ2人は、先輩から「ネットで記事を書くと金になるぞ」と聞いたのを機に、始めたという。
当初は、『トランプ候補が「メキシコ国境に壁を作る」と発言した』など、大手メディアでも話題になっていた内容をまとめた記事を作っていたが、どうもアクセス数が芳しくない。
そこで方針を変えて、『「ネバダ州の砂漠に強制収容所を作る」と発言した』という具合に、トランプ候補の発言にウソを入れて過激にしてみたところ、アクセス数が急増。広告収入が一気に増えた。
当初は「本当」も混ぜていたが、気づくとタイトルから記事、写真まで、すべてウソばかりになっていったという。
「一番のヒット作だ」という1本の記事をスマホで見せてきた。『速報 ドナルドトランプが心臓発作で死亡』。
トランプ氏が仰向けに倒れ、血のようなものが流れている写真が添えられており、画像加工ソフトも駆使して作り上げたという。
ホームページ作成方法は独学で学び、英語も使いこなし、アメリカ国民向けにウソの記事を書き続ける2人は、「とにかくタイトルで興味を引くことが重要」と繰り返す。
作成した記事は、フェイスブックのシェア機能を使って投稿するが、より多くの人に拡散するよう、時差を考慮してアメリカ時間に合わせて投稿するなど、
細かい工夫を重ねている。こうしたフェイクニュースで、多い時には月に約60万円(この町では1年分の収入)の広告収入を得ているという。
親の一生分の給料を、わずか数カ月で稼ぎ出した若者もいるという
「実際にはありえないような内容を書いているのに、たくさんのお金が入る。アメリカ人って馬鹿だなと思うようになったよ。
2020年のアメリカ大統領選挙でも稼がせてもらうよ」と淡々と話す2人に、「罪悪感はないのか?」と問いただすと、
「悪いのはフェイクニュースを作っている俺たちじゃない。読んで騙される彼らの方だ」と言い放った。
2人は、稼いだ金で毎晩のように飲み歩いている。決まって飲むのは、ジャック・ダニエル。
マケドニアにも、ワインや蒸留酒のラキアなど国産酒はたくさんあるが、外国の高いウィスキーを飲むのがステータスだという。店はフェイクニュース制作者が情報交換する場になっていて、大勢の若者で賑わっている。
内臓が揺さぶられるほど大音量のクラブ音楽が流れる店内で、彼らは叫ぶように将来の夢を語り合っていた。
彼らがフェイクニュースを作る背景には、同国の厳しい経済状況がある。マケドニアが旧ユーゴスラビアの一部だった昔、
ヴェレスは国営の工場が集まる一大工業地帯で、活気に溢れていた。ところが、ユーゴスラビアが解体すると、工場は次々と閉鎖。現在、住民のおよそ3割は失業者だ。若者たち口を揃える。
「親には頼れない、金は自分で稼がなくてはいけない」
取材では、マケドニアの若者たちの間で「先生」と呼ばれている人物に面会した。ミルコ・チェセルコスキ氏。彼の名刺には「トランプ大統領の誕生を手伝った男」と書かれている。
ミルコ氏は7年前から、ネット上で広告収入を得るノウハウを教えており、これまで大勢のヴェレスの若者を指導してきたと言う。
若者たちに必ず紹介するという、1本のフェイクニュースを見せてきた。見覚えのある記事―アメリカで出回っていた、あの『歯磨き粉のチューブ』のニセ記事だった。
「この1本だけで、1000万円稼ぎ出しました。世界で1億回も読まれたんですよ。実はこの記事を作ったのは、私の妻なんですけどね」。勝ち誇ったような笑い声が、耳にこびりつく。
「『大きい』とか『たくさん』のような普通の言葉を使ってはダメなんですね。『途方もない』『ものすごい』『計り知れない』『壮大なスケールの』『天井知らずの』など大げさなフレーズを使うんです。
『ここだけの』とか『速報』とかをつけ加えれば、クリックの獲得は間違いなしです。中身は必ずしも事実でなくても良いのです」
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55222