世界に先んじて電気自動車(EV)普及を早急に進める中国政府の政策の下、同国の自動車業界に大規模な再編の波が押し寄せそうだ。習近平政権はEVなどの新エネルギー車(NEV)の生産をメーカーに割り当てる方針で、化石燃料を動力源とする車の禁止も検討。こうした性急な改革についていく力のないメーカーは、存亡の淵に立たされるとみられている。
製造や技術で提携
来年施行される規制では、従来の自動車の生産台数または輸入台数が年間3万台を超えるメーカーに、一定割合以上のNEVの生産・販売が義務づけられる。守れなかった場合は「NEVクレジット制度」と呼ばれる仕組みに基づき、クレジットの購入や罰金の支払いを求められる。
豪マッコーリーキャピタル証券のアナリスト、ジャネット・ルイス氏は「突き詰めれば、NEVの技術がなければ、生き抜くのは困難」と断言する。
中国の自動車大手、浙江吉利控股集団が独ダイムラーに約73億ユーロ(約9590億円)出資したのも、規制導入前にNEVの事業を拡大したい中国メーカーの焦りの表れだ。
製造や技術の提携も進んでいる。昨年12月、第一汽車、東風汽車、重慶長安汽車の国有自動車大手3社が提携した。技術開発や新規ビジネスモデルの発掘、海外投資で協力する。JSCオートモーティブ・コンサルティングのマネジングディレクター、ヨッヒェン・シーベルト氏は「この動きが他の国有企業にも広がるかもしれない。政府にとっては、大手以外の国有メーカーは不要だ」と語り、業界再編を予測する。
地方の小規模メーカーも例外ではない。ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンスのシニアアソシエート、寇楠楠氏は「小規模メーカーや創業したばかりの新興企業は、新型モデル生産には規模や資金が不十分であることから、身売りや廃業に追い込まれる可能性がある」とにらむ。
小規模の大半は廃業
中国自動車工業協会(CAAM)の統計によると、昨年、販売台数が1万台を割り込んだ中国メーカーは約15社あった。排ガス規制が厳しくなり、エンジンが技術的に高度になるにつれて、企業が業界の流れに取り残される可能性は高まる。シーベルト氏は「2025年までにほとんどの小規模メーカーは廃業するか、大手に吸収されるだろう」と予測する。
中国は09年に米国を抜いて世界最大の自動車市場となり、15年にはNEV市場としても最大になった。
市場の成長は、業界のM&A(企業の合併・買収)の加速と一致する。ブルームバーグのまとめによると、中国メーカーのM&Aは13年には約30件だったが、17年には100件近くに達した。5年間の合計は274件で規模は290億ドル(約3兆1000億円)だった。買収の対象となったのは主に中国企業だ。
寇氏によれば今後のM&Aの波は、EV普及のペースにもよるが、早ければ25年にも訪れる。政府はNEVの販売台数目標を、25年には700万台と、18年比の7倍に設定している。同氏は「特に国有企業間で、再編がより進む可能性がある。EVが業界全体を塗り替える。メーカーにとっては対応力が試される」とみている。(ブルームバーグ Michael Tighe)
2018.4.6 06:07
https://www.sankeibiz.jp/macro/news/180406/mcb1804060500009-n1.htm